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【滋慶医療科学大学院大学】多職種連携、地域包括ケア時代の医療安全教育で活発な議論-医療安全実践教育研究会 第2回学術集会

多職種連携による医療安全教育をテーマに開かれた「医療安全実践教育研究会 第2回学術集会」=大阪大学中之島センターで

 [多職種連携による医療安全教育の展開とその方法論]をテーマに、「医療安全実践教育研究会 第2回学術集会」(同研究会・滋慶医療科学大学院大学共催)がこのほど、大阪・中之島の大阪大学中之島センターで開催されました。

 各方面から多数の医療関係者が参加、医療安全に関する教育についての講演やシンポジウムなど、終日、活発な報告や意見交換が展開されました。

武田学長が講演「患者情報のインフラ整備」「システム指向の患者安全マネジメント」の重要性を訴える

武田裕学長による講演武田裕学長による講演

 まず研究会を代表して滋慶医療科学大学院大学の武田裕学長が[地域包括ケア体制における患者安全を考える]と題して講演。団塊世代が後期高齢者(75歳以上)を迎える“2025年問題”に向けての医療・介護の機能再編の方向性を示すとともに、地域包括ケアについて言及しました。

 武田学長は、在宅医療・介護を促進する地域医療・介護総合確保推進法が施行され、医療法改正などの準備が進んでいる点に関して、「在宅医療・介護を支えるには、病院、診療所、介護施設が相互にネットワークを構築して、患者情報を共有するインフラ整備を急ぐべきである」と述べました。

 患者安全へのアプローチとしては、従来の「事故が起きたらどうするか」という考え方から、今後は「事故が起こらないようにするにはどうするか」という意識改革が必要だと訴えるとともに、「レジリエンス(リスク対応能力、回復力)にも注目していきたい」と話しました。

 また最近起きた大病院での投薬ミスについて、プロセスの誤作動が原因で「普段からフロー図を描いて予測しておくべきだ」と指摘。激変する医療環境に対応するには、「システム指向を重視すべきである」と訴えました。

 さらに、患者の情報収集→情報統合と意思決定→行動・行為という流れの中で、最適なプロセス状態に保つ「最適制御プロセス」の実現が求められる。システム指向の患者安全マネジメントとして、事故を未然に防ぐ考え方に加えて、「システムを作動させる科学としてのサイバネティクスの発想、手法によるマネジメントが求められる」と、システム指向のサイバネティク・マネジメントの導入を提唱しました。

初代厚労省医療安全室長の新木氏「医療の新天地開拓は日本の責務」「実践的な職業教育で医療人養成を」

厚労省の初代医療安全室長だった新木一弘氏が講演厚労省の初代医療安全室長だった新木一弘氏が講演

 次いで、厚生労働省の初代医療安全室長や文部科学省の医学教育課長を務めた南魚沼市立ゆきぐに大和病院の新木一弘氏による特別講演「医療安全と医学教育」が行なわれました。新木氏は両省での医療行政の経験を踏まえ、「南魚沼産のコメは良質、酒も上手い」と、地元・新潟のPRで会場を和ませながら、今後の医療をめぐるキーワードとして、「高度・高品質・多様な医療ニーズへの対応」、「医療コストの増大」、「少子高齢化と都市化の進展」などを挙げ、「質が高く、信頼しうる医療を実現し、世界、アジアに向けて医療の新天地を拓くのは日本の責務だ」と述べました。

 近年、看護系医療大学が急増していることについて新木氏は、「職業教育として、実践的な人材の養成を期待したい」と述べるとともに、①教育に要する人材と予算の確保、②教育が報われる処遇の確立、③教育の質の保証など、医療人材養成の課題を挙げました。

 地域医療については、「地域医療の質とは何か」と問いかけ、地域医療の質を測るには「診てもらえる」「必要な医療が受けられる」ことを前提に、「人の評価、医療機関の評価、地域の評価について数値化ができればよい」としました。

シンポジウムで実践例報告「シミュレーション手法で多職種連携」横浜市大の中村氏ら

シンポジウムで院内教育の実践例を紹介する横浜市大の中村京太氏シンポジウムで院内教育の実践例を紹介する横浜市大の中村京太氏

 午後からはシンポジウムがあり、4人の講師による講演が行われました。

 横浜市立大学付属市民病院総合医療センター高度救命救急センター担当部長の中村京太氏は[シミュレーションを使用した院内教育]と題して講演。平成19年度から運用している院内教育用の「シミュレーションセンター」で診察手技、蘇生関連、カテーテル講習など、基本から応用までのスキルトレーニングを実施。開設当初は認知に苦労したが、今では、実習や講習を通じて、「練習すれば誰でも動ける」「事務員も重要な働きができる」「病院が一丸となることが必要」などの声が寄せられていると報告。シミュレーション手法によって、「多職種連携の具体的な戦略を検討できる」「全体像が把握でき、イメージがわきやすい」「情報共有によって、人員の効率配置、確実な指示ができる」などの効果が出て雰囲気が良くなったと報告しました。

「マシュマロチャレンジで参加型教育」大阪大の中島氏

大阪大学の中島和江氏大阪大学の中島和江氏

 また大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部部長の中島和江氏は、スパゲティーやマスキングテープ、ひも、マシュマロを使ってチームに分かれて自立式のタワーを作って高さを競う「マシュマロチャレンジ」ゲームが多職種チームメンバーによる参加型医療安全教育に役立つと事例を紹介。コミュニケーション、チームワーク、リーダーシップ、フォロワーシップなど、医療現場で必要な「ノンテクニカルスキル」を学ぶ研修に適していると報告しました。

「看護と介護の連携授業で相互理解」大阪保健福祉の豊田氏

前大阪府看護協会会長の豊田百合子氏前大阪府看護協会会長の豊田百合子氏

 前大阪府看護協会会長で大阪保健福祉専門学校副学校長の豊田百合子氏は、多職種連携教育の一環として、大阪保健福祉専門学校で昨年4月から導入している「看護と介護の連携授業」を紹介。看護学科と介護福祉科の学生の間には、価値観やアプローチに相違点が見られるが、連携授業が進むに従い、「共に学びあうプロセスを経て理解が深まった。地域包括ケア時代の医療安全に向けて、職種の壁を越えた共通言語が必要になる」と述べました。

「コンピテンシー開発による実践的な問題開発能力」滋慶大学院の江原氏

滋慶医療科学大学院大学の江原一雅研究科長滋慶医療科学大学院大学の江原一雅研究科長

 滋慶医療科学大学院大学の江原一雅研究科長は「医療機関において、多種・多様な職種・職位、経験年数の異なる職員の教育は至難のワザ」とした上で、大学院大学では、医療安全に関するリーダーを育成するため、「教育の実践能力の養成」に注力。医療機関等で働きながら学ぶ多職種の社会人が多い院生に対して、ブレインストーミング、エラー分析、ロールプレイ、チームトレーニング、シミュレーションなど様々な演習を導入し、「コンピテンシー開発による実践的な問題解決能力の養成が、医療教育の新しいトレンドだ」と報告しました。

実態調査研究を報告する滋慶医療科学大学院大学の小野セレスタ麻耶専任講師実態調査研究を報告する滋慶医療科学大学院大学の小野セレスタ麻耶専任講師

 このあと、[医療機関における職種横断型教育の現状と課題の明確化をめざして]と題して、滋慶医療科学大学院大学の小野セレスタ摩耶専任講師が、医療安全教育に関する実態調査の研究報告を行いました。
「医療安全教育の実態調査 ~医療安全実践教育研究会第2回学術集会で報告~」のレポートはこちら

 このほか、以下の4件の一般演題発表がありました。テーマと演者は以下のとおりです。

(1)[危険予知トレーニング実施の安全意識比較](箕面市立病院 福田将誉氏)
(2)[当院におけるチームSTEPPS 導入研修の実際~事前準備から導入に至るまで~]
   (地方独立行政法人堺市立病院機構市立堺病院 松川訓久氏)
(3)[中小規模病院における医療安全教育方法の工夫“SBAR”導入教育の実践と教育効果の検討]
   (三菱京都病院 林知江美氏)
(4)[第1回事故想定訓練の振り返り](特定医療法人社団御上会野洲病院 乾悦子氏)