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滋慶医療科学大学院大学6期生入学式 大学病院勤務の新入生代表、和田山さんが宣誓しました

滋慶医療科学大学院大学で行なわれた第6期生の入学式。新入生を代表して和田山智子さんが宣誓を行ないました

 「医療の質と安全」を研究実践する専門家の育成に取組む滋慶医療科学大学院大学(大阪市淀川区)の第6期生入学式が桜咲く4月3日(日)、新大阪駅前にある大学院学舎9階で行なわれました。式には、国内外からのご来賓や医療安全管理学とその周辺領域にまたがる分野を指導する教授らが出席、看護師や臨床工学技士など医療の最前線で働きながら医療安全のプロフェッショナルをめざす修士コース20名の新入生を激励しました。

 国歌斉唱に続き、武田裕学長が登壇し、まず「まだまだ若い大学院ですが、教職員一同、皆様方が立派な業績を上げて修了していかれるよう全力を尽くして指導にあたります」と決意を表明した上で、歓迎の言葉を述べました。

武田学長 「医療制度の変化の中での医療安全問題を直視して、一つでも二つでも研究を」

新院生に訓辞を行なう武田裕学長

 この2016年はわが国にとっても重要な年になるのではないかと思います。医療を取り巻く環境は、経済の問題、そして医療の質の問題、両方共に未だ大きな問題を抱えています。昨年10月に新しい医療事故調査制度が法律として施行されました。ただ報告される数はまだまだ予想以上に少ないと言われています。多くの医療機関にとっては、学習型という自らが自らを律しながら事故を予防する新しい制度に対する十分な備えができていない、知識・技術が育っていないのではないかと思っています。

 しかし患者さんの安全の問題はいつの状況においても、最優先されるべきものであります。我々はわが国初の医療安全を専攻する大学院大学としてこの問題にしっかりと取組んでいきたいと思っています。また入学される諸君も、このことをきちんと頭の中に入れて良い研究をしていただきたい、と思っています。

 さらにこの4月1日から診療報酬請求制度の改訂がありました。40兆円を超える医療費が毎年使われていますが、その医療費を健康保険制度で支払っている人たちは高齢化し、支払う側から使う側になっています。そうすると、この国の保健医療制度はどうなるでしょう。これからは医療機関にもっと経費を節減するようにといった経済的な圧力がかかってくるでしょう。そして急性期の病院は早く退院してもらってお金のかからない在宅医療で行なって欲しいという流れになってきます。

 その経済的な問題と地域包括ケアにおける患者さんの安全は誰がどのように面倒をみるのでしょうか。まだそのような新しい方法論はわが国では確立していません。しかし、このことをやらなければ、経済の問題ばかりが優先されて、医療は疲弊し医療の質が落ちてくることになります。今年入学される皆さん方は、この種の問題を直視して、一つでも二つでもその問題解決に役立つ研究を行なっていただきたいと思います。

 今年の修士課程への入学者20名の半数は看護師さんですが、社会人の少ない一般の大学院に比べて平均年齢も高くなっています。家庭や仕事、そして大学院の学生生活という3足のわらじを履く、これは並大抵のことではないと思います。そういう意味でここにおられる方は、決意を新たにされていることと思います。日本の医療を何とかしようという崇高な理想と、自己実現をめざして、ぜひ頑張っていただきたいと思います。

浮舟邦彦総長 「医療の変化の中で、職種間連携、リスクマネジメントが非常に重要になります」

理事長として祝辞を述べる浮舟邦彦総長

 新入生の皆さん、この医療安全の大学院も6期生を迎えるようになりました。これまでに4期78名の修了生を送り出しています。それぞれの現場で医療リスクマネジメント、医療の質と安全管理のリーダーとして活躍されています。また教育者として現場で教育にあたっている人もいます。

 超高齢化社会を迎えて、日本の医療が変化しています。病院の中での完結型医療から急性期、リハビリテーション、地域連携、かかり付け医から訪問看護というように、多岐にわたった形になってきました。そうなると職種間連携が非常に重要になってきます。一つの職種だけではなく業種間連携が必要になってくるし、産学連携、行政との連携も必要になってきます。そうなると、マネジメントが必要になります。

 誰がそのマネジメントを行なっていくか、誰がリーダーシップをとっていくかであります。マネジメントというのは、日本の産業界でも必要とされるところでありまして、病院とか機関の中でのマネジメントということなら上位者とか管理職とかになるのですが、職種、地域、業種をまたがる職種間連携の中でマネジメントしていくということになれば、プロフェショナルとしてマネジメントが出来る人材が現場においても必要になってきます。

 リスクはどの業界にもあります。とくに医療の問題、福祉の問題は生命の危険ということと結びついており、安心・安全ということが大きなテーマです。リスクマネジメントがマネジメントの中でも非常に大きな要素を持ってきます。とくにこの大学院は医療の質と安全を研究する研究者を育成しています。これは研究者、イコールマネジメントという形で絡んでまいります。それだけに皆さんに対する期待が大きいわけです。そういう風に医療が変わってまいりますと、患者さん、あるいは家族の問題、医療機関との関係、地域との関係というように非常に多岐にわたった関連がベースになってくるし、患者さんの目線とか家族の方の目線が重要な要素になってきます。

 皆さんの中には看護師さんが半分おられるし、臨床工学技士さん、作業療法士さん、臨床検査技師さん、診療放射線技師さん、言語聴覚士さん、社会福祉士さんと、それぞれが資格を持って、スペシャリスト、テクノロジストとして仕事をして来られた方々です。スペシャリストの方は、生涯学び続けていく、自分のキャリアをどう開発していくか、キャリアをどうアップしていくかが、非常に大きな課題になってきます。生涯教育が大きなテーマとなってきます。

 皆さんはそれぞれの職場で資格を持って仕事をしてきて、それぞれのキャリアを開発してこられました。そしてそれぞれの職場で必要としている医療の質と安全、福祉の質と安全、そしてリスクマネジメントのリーダー、研究者を目指してご自分のスペシャリティ、専門領域のキャリアアップ、キャリア開発が目的で入学されたと思うのです。

 今このリスクマネジメントのリーダー、研究者は医療の業界、福祉の業界が最も必要としています。また非常に少ない人材であります。それぞれの仕事をしながら、家庭を守りながら、かつ自分の勉強を新しいジャンルでしていくというのは大変だと思いますが、それだけに達成した時の充実感とか、次へのキャリア開発が大きな事となってきます。社会が求めていますので、ぜひ頑張ってやっていただきたいと思います。学校も全面的にバックアップします。先生方とのいい関係を作ると同時に学会やセミナーにも積極的に参加して充実した2年間にして下さい。

大阪府立病院機構 遠山理事長「リサーチマインド、集中力が大事です」

大阪府立病院機構の遠山正彌理事長から激励の言葉をいただきました

 次いで国内来賓を代表して、地方独立行政法人大阪府立病院機構の遠山正彌理事長から祝辞を頂きました。

 遠山理事長は、大学院で学ぶ上で大事な事として、「まずリサーチマインドを作っていくことです」と述べ、「職場で幅を利かせている“経験則”だけでは生き延びていけません。モノには原因と結果があり、“なぜか”が大事です。ぜひ好奇心、探究心を養い、批判的かつ前向きな気持ちで研究に取組んでいただきたい」と話されました。

 さらに遠山理事長は、「(仕事と学業という厳しい環境では)集中力が求められます。ぜひ集中力を養ってください。3つ目はその日何をやるのか目標を設定し、それが出来たのか出来なかったのか、そのチェックアンドレビューを繰り返して下さい。大きな目標も大事ですが、自分の研究の中で毎日小さな目標を積み上げていくこと、ワクワク感を持てることが大事だと思います。

 そして一番大事なのが患者さん目線です。これは経営上でも非常に大事なことであり、安全安心は病院にとって非常に大事なことです。ただ現実的には難しい局面もあり、大変な壁があるかも知れませんが、安全安心が実現できてこそ、わが国の病院は本当のホスピタリティを持てるのだと思っています。

 この大学院に賭ける私の期待でもあり、安心安全への新しい切り口をこの大学院から作っていって欲しいと思います。道は厳しいかも知れませんが、それは楽しいことにつながると思います。ぜひ頑張ってください」と、新入生への激励の言葉をいただきました。

 海外提携校の米国カリフォルニア州立大学サンマルコス校看護学部のデニス・ボレン学部長と、中国・上海健康医学院の黄鋼院長から祝詞をいただきました。

カリフォルニア州立大ボレン学部長、上海健康医学院黄院長から祝辞を頂きました

 ボレン学部長は「皆様はヘルスケアにおける新しくエキサイティングな分野での学びをスタートされました。多職種間コラボレーションはヘルスケアにおけるコーディネーション、コミュニケーションを向上させ、究極的には医療の品質と安全を向上させるものと研究結果が出ています。多職種間チームで働く技術と経験は情報共有、品質安全確認の実施、患者の治療プランに向けてのガイダンスに力を発揮します。ここにおられる教授の方々から多職種間連携を学ぶ卓越した教育プログラムを受け、安全で高品質な医療を提供するというゴールに到着して、専門の違う医療職者を一つに纏め上げる未来のリーダーになってください」と述べられました。

 黄院長からは、「これまで本校と大阪滋慶学園は臨床工学技士の養成を通じて国際教育提携を展開してきました。現在、リハビリテーション分野の提携も積極的に行なっています。本日の式次第に『患者様の安心と安全のために』とあるように、入学される皆様は、それぞれ思いがあって、この大学院の扉を叩いたのだと思います。このフレーズを胸に抱き、努力を惜しまず勉学に励み、貴重な時間を無駄にしないで下さい」と激励の言葉をいただきました。

  • カリフォルニア州立大学サンマルコス校のデニス・ボレン学部長

  • 上海健康医学院の黄鋼院長

 来賓紹介が行なわれ、カリフォルニア州立大学サンマルコス校のリエン・グエン教授や、上海健康医学院医療器械学院の胡兆燕院長、同リハビリ学院の王紅副院長、同薬学院生物製薬専攻、王志雄主任、同医療器械学院臨床工学技術専攻、銭鋒主任、一般社団法人大阪府臨床工学技士会、村中秀樹会長、奈良県臨床工学技士会、萱島道徳会長らが紹介されました。

 また、日本医師会の横倉義武会長、日本看護協会の坂本すが会長、大阪府医師会の伯井俊明会長、大阪府看護協会の伊藤ヒロコ会長らから頂いた祝電の披露が行なわれました。

 今年の入学生20名は、大阪、兵庫などの大学病院に勤務する看護師を中心に、臨床工学技士や臨床検査技師、作業療法士、診療放射線技士、言語聴覚士、社会福祉士と、それぞれの現場で経験を積んだ“その道のプロ”です。医療、福祉の多職種メンバーが共に机を並べて学び研究する中から、医療安全への新たな成果やプロセスが生まれてくることが期待されています。

 最後に入学生を代表して、京都大学医学部附属病院の看護師でもある医療管理学研究科医療安全管理学専攻修士課程、和田山智子さんが「専門性豊かな先生方から指導を受け、多職種の経験豊富な学友と共に学び、医療の質と安全の向上に貢献できるよう、またリーダーシップを発揮できるよう努力してまいります。
 入学後は健康に留意し、学業と仕事や家庭などを両立させながら、自らの課題に向き合い、当該研究分野の研究能力を養って日々、研鑽すると共に本大学院大学の規則を遵守することを誓います」と宣誓を行ないました。

3期生の公立病院医療安全対策室長 後輩のためにオリエンテーション

大学院での学びを講義する3期生の餅田佳美さん

 またこのあと、滋慶医療科学大学院大学の3期生で東大阪市立総合病院医療安全対策室長の餅田佳美さんが勤務する病院と家族の理解と協力を得ながら、病院務め、家庭を守りながら学業を全うした貴重な体験を後輩たちのために紹介しました。

 餅田さんは、勤務先で医療安全管理を担当することになったことをきっかけに入学したことや、18時からの講義に間に合わせるために連日のように走りながら学校に向かったことなど、決して楽ではなかった学生生活だったと報告。しかし仲間との交流や教授陣からの厳しくも温かい指導などでそれなりに楽しい人生の宝とも言える2年間を過ごせたと話しました。

 医療管理学研究科長の江原一雅教授と小野摩耶講師の指導を受けて修士論文「急性期病院における組織文化と患者安全への意識の関連について」を纏め上げ、修士号を取得した餅田さんは、自分の経験を振り返りながら、最難関の論文作成への道筋などについても解説。大学院での学問・研究を通して苦しんだことが、現在の仕事に生かされていると述べ、「大学院では多職種の専門職の方々と話し合うことで価値観や考え方、多くの施設の取り組みを知り、お互いに理解することが出来ました。多彩な教授陣の指導を受けて本当に視野が広がりました」と、まだ手探り状態にある後輩たちに丁寧に説明、全員が医療安全管理学の修士号を獲得して欲しいと激励しました。

 新入生の皆さんも真剣な表情でじっと耳を傾け、これからの2年間、学業への様々なハンディを抱えながら、平日の夜間と土曜日に大学院に通う日々を想像、それぞれの「医療安全」のテーマを選んで研究を進め、修士論文執筆に挑戦します。