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2月2日ザ・シンフォニーホールで上演される交声曲「海道東征」について 浮舟邦彦総長が文芸批評家の新保祐司氏と対談

 2月2日(金)、ザ・シンフォニーホールで北原白秋作詞、信時潔作曲のカンタータ「海道東征」が産経新聞社の主催で上演されます。大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏で指揮は山下一史さん。ソプラノの幸田浩子さん、バリトンの萩原寛明さんらを迎えて、大阪フィルハーモニー合唱団、大阪すみよし少年少女合唱団らが共演します。

 演奏会に先立って、文芸批評家の新保祐司氏(都留文科大学副学長兼教授)とザ・シンフォニーホール総監でもある滋慶学園グループの浮舟邦彦総長が対談、その模様が産経新聞に掲載されました。
記事(12月2日付産経新聞)はこちら(PDF)

産経新聞社の許可を得て対談内容をご紹介します。

日本人のDNA 呼び起こす

 記紀が伝える建国物語を基に、北原白秋が詩を描き、大阪出身の信時潔が曲をつけた交声曲(カンタータ)「海道東征」。戦後70年と信時の没後50年にあたる一昨年、大阪で復活し、今年4月には東京でも公演された演奏会が来年2月2日、大阪にまた戻ってくる。公演を前に、曲の持つ意義を訴えてきた文芸批評家の新保祐司さんと、公演が行なわれる大阪市北区のザ・シンフォニーホール総監で滋慶学園グループ総長の浮舟邦彦さんに、その魅力を語ってもらった。

浮舟 2年前の11月20日でした。新保先生の解説をお聞きし、「海道東征」の第一楽章が雅楽のような調べで始まりました。クラシックの管弦楽と日本的な調べ、それから出演者の歌声、民謡、古謡がミックスされて、不思議な感覚の中で日本人のDNAが呼び起こされたような感じを強くしました。あんなに感動するとは思いませんでした。

新保 私も若い頃からクラシックファンですが、日本人の西洋音楽鑑賞はどこか頭で聴くというようなところがあります。日本人が作る西洋音楽もどこか観念的です。でも今回、信時潔の「海道東征」を聴いた時、心から痺れるというか、これは違う、と。本当に西洋音楽を血肉化した、数少ない作品だと思いました。
 この曲が昭和10年代に無かったとしたら、文化の欠落です。ハンチントンは世界8文明の中に唯一1国1文明の国として日本を選びました。この曲は日本文明の柱になる曲だと思います。

黄金色の景色浮かぶ/文明の柱になる曲だ

浮舟 おっしゃる通りです。聴いておられた方は、おそらくいろんな方がおられたのでしょうが、かなり多くの方がハンカチを出しておられました。
 第一章の「高千穂」でバリトンが歌いだして、黄金色に染まる瑞穂の国の景色が浮かび、第二章の「大和思募」で「大和は国のまほろば、たたなづく青垣山」とソプラノが歌いだします。もうこのあたりから、気持ちが入っていきますよね。

新保 入っていきます。信時がバッハ、ヘンデルとかハイドンのカンタータというものをいかに深く学んでいたかということですが、曲の構成がまた素晴しい。最後に、第一章のメロディがまた戻って、円環的になっている作り方とか、音楽家の技術としても高いものを持っていた人だと思います。信時はドイツに留学してしっかり学んでいるのに、そういうものを表面に出さない。その辺がえらい。だから信時の曲は、聴けば聴くほど、味が出てくるのです。

浮舟 なるほど、なるほど。

新保 先ほど浮舟さんがミックスという言葉を使われましたが、日本人が持っていたものと、バッハから取り入れた西洋的なもの、「明治の精神」で言えば、接ぎ木ですね。「海ゆかば」では、さらに万葉集の大伴氏の言立(ことだて)が接ぎ木されたということです。
 「海道東征」の後「海ゆかば」を聴くことで、信時と万葉集あるいは日本の古代が、日本人の精神として完結します。

信頼する二人 生まれた傑作

浮舟 白秋の大和ことばの詩もすばらしい。元は古事記の「中つ巻」ですね。私はこの曲を聴いて古事記を読んだのですが、神話と歴史書が一緒になって編纂されているなんて、日本独特じゃないかと、また違った感動をしています。

新保 曲の最後がまた素晴しい。「彌榮(いやさか)を我等(われら)。」と、白秋は「我等」で終わせるんですよ。あの大合唱がもう素晴しくて。共同体の一員であるという、そういう感動ですね。
 信時は紀元2600年の奉祝曲という大変な依頼だったので、できるかなと躊躇したようです。でも、白秋の詩を見て、感銘を受けたようですね。白秋の偉大さは、最後にこの民族の叙事詩を書いた点ですが、信時が作曲してくれたことに白秋も感謝しています。二人の信頼関係、それで出来た傑作だと思います。
 それをザ・シンフォニーホールという日本が誇る音楽堂で演奏されることがまたすばらしいことだと思います。

浮舟 わらべ歌も入っていて貴重な作品です。若い人にも聞いて欲しいですね。12月になると日本人は第九を聴くじゃないですか。同じように、1年に一度はこの「海道東征」を聴くことがあってもいいのではないかと思っています。
 2月2日を楽しみにしましょう。

以上。

※なお、新保祐司氏は今年度の「特筆すべき言論活動を行ったオピニオンリーダー」に贈られるフジサンケイグループの「正論大賞」受賞が決まっています。