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大阪大学で浮舟邦彦総長が「専門学校における職業人教育~時代が求める人材像の変化~」をテーマに講演しました

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 滋慶学園グループの浮舟邦彦総長は7月19日(月)、大阪大学のオンライン講義で約1時間、「専門学校における職業人教育~時代が求める人材像の変化~」をテーマに講演しました。2016年から最新の産業界、社会の動向を学んでもらおうと同大学全学教育推進機構が関西経済同友会、関西サイエンス・フォーラムとともに行っている先端教養科目の講師として招かれたもので、コロナの影響で中止となった昨年を除いて浮舟総長の講義は今回で5回目です。約110人の学生の皆さんが受講しました。

【講師プロフィール】
 1941年(昭和16年)生まれ 関西学院大学法学部 法律学科卒業
学校法人滋慶学園、学校法人大阪滋慶学園などの理事長として大阪、東京を中心に北海道から九州まで全国各地で80校3万8千人の学生が学ぶ高等学校、専門学校、大学、大学院を運営するとともに、ザ・シンフォニーホールなど約70の企業・施設を含む滋慶学園グループの総長として、教育と経営の両面からマネージメントにあたっている。
 医療秘書教育全国協議会理事長。1996年フロリダ州立ウエストフロリダ大学から国際教育名誉博士号を授与され、2009年米コロンビア カレッジ シカゴから、2013年韓国啓明大学から、それぞれ名誉博士号を授与されている。

 浮舟総長は滋慶学園グループの紹介ビデオを映したあと、次のタイトルで講演しました。
① マネジメントの前提として
② 社会の変化
③ 日本の教育システム
④ 滋慶学園の取り組み
⑤ 時代が求める人材像の変化
⑥ 変わらない人材と我々の目標

マネジメントの前提として

 

マネジメントの重要性を伝えます

 経営者の視点から、まずマネジメントがいかに大切かを伝えました。
 マネジメントの前提として、「人・組織・社会」の関係性を説いた上で、「社会の中に組織があり、皆さんは大阪大学という組織に属しています。社会は変化し、そこに属するものとして我々はその変化を受け入れていかなくてはいけない。コロナの苦しみを受け入れていかなければいけないのです」と切り出しました。
 その上で、組織の目標・目的が重要であり、経営の3大要素(人・もの・金 あるいは情報)を駆使して、「その目的・目標を達成することがマネジメントです。組織は変わっていかなければいけないし、人は仕事を通して成長していくのです。そしてどう生きていくかということが大切です」と、マネジメントの基本について伝えました。

社会の変化

18歳人口の推移と社会の変化を示す相関グラフ

 「グラフの始点は1960年です。私が高校3年生18歳の時でした。同世代が200万人いました。皆さんはまだ生まれていません」。
 こう和ませ、18歳人口の推移と社会の変化を示すグラフを見せて、「日本の高度成長からバブル経済、そして1992年のバブルの崩壊、さらに失われた10年、失われた20年があり、世の中はインフレ時代からデフレ時代に変化し、今も続いています」と解説。「社会がどのように変化してきたかを見ることはとても大切です」と述べました。

 時代の変化の中で、滋慶学園グループをどのように経営してきたかについても語りました。
 1976年、グループの礎となる歯科技工士の学校経営をスタート。35歳の時です。1992年には、グループ校が10校、学生数1万人になっていました。
 「その1992年、バブル経済が崩壊しました。建設をお願いしていた建設会社が倒産し、取引先の銀行も倒産しました。大きなピンチを迎えました」。
 苦しかった時代を振り返り、そこから長期計画、5ヵ年計画策定など立て直しのための手を打ってきたことを説明。「すぐにとはいきませんでしたが、5ヵ年計画を重ねていくことによって経営も徐々に良くなり、最近になって、ようやく無借金経営にこぎつけることが出来ました」と、計画を立てること、それを着実に実行していくことの重要性を訴えました。

 

 そして、①文明論的な変化、②世界の枠組みの変化、③日本社会の変化、④科学技術の進歩、この4つの視点からの変化を理解しておくことが重要だと述べ、未来学者のドラッガー博士が2002年に著した『ネクスト・ソサエティ 』で、「少子高齢化」や「知識労働者中心」、「Eコマース」、「ネクストカンパニー」など、20年後の今の世の中を見通した先見性を紹介。「だから我々は常に社会がどう変化していくかということを意識して取り組んでいくことが必要なのです」と自説を展開しました。

日本の教育システム

  • 004不登校

    不登校の子供たちの増加を示すグラフ

  • 005理念

    理念の大切さを説きます

 大学、専門学校など日本の学制に触れた後、専門学校が今、職業実践専門課程を中心に企業と連携する産学連携に重点を置いた最先端の実学教育に取り組んでいることを紹介。リベラルアーツを重視する大学に対して、自分がやりたい仕事から学びに入る専門学校の特徴などについても述べました。

 さらに小中高における不登校など日本の教育界が抱える問題にも言及。不登校問題について、「我々は意識してかからないといけないと思います。社会人として彼らがしっかりと社会に定着していくために、どっかでカバーリングして、社会の一員として仕事がしていける、あるいは社会の中で生きていける形を作っていかなければいけない」と訴えました。

滋慶学園の取り組み

日本で初めてeスポーツの新学科を設置

 滋慶学園グループが行っている職業人教育への取り組みについても紹介しました。専門学校として人材こそが大切だと教職員らの研修に特段の力を入れていることや、人間力を高めるための行動指針「滋慶語録」を刊行、「職業人教育を通して社会に貢献する」という建学以来のミッションや理念を大切にしていることを伝えました。

 学校教育ではたえず新しい学科のイノベーションに取り組んできた経緯を紹介。コロナ禍の中、エクモなど医療機器の操作で注目されている臨床工学技士の前身、メディカルエンジニア養成にいち早く取り組んできたことや、聖路加国際病院名誉院長だった故日野原重明先生と共に医療秘書教育に力を注いできたことなどを話しました。最近ではグーグルインターンシップへの参加やeスポーツ、ドローン、ホワイトハッカーなど新領域に取り組んでいることを紹介しました。

未来のウメキタの生活デザインをヤンマーに提案

産学連携を重視、未来のウメキタの生活デザインをヤンマーに提案した事例

 産学連携の重要性を強調した後、滋慶学園が取り組んでいる個々の教育事例として、東京バイオテクノロジー専門学校の学生が三宅島の噴火で消滅した酒の酵母を復活させて焼酎を再現したケースや大阪ECO動物海洋専門学校の学生による大阪湾のスナメリ調査、東京コミュニケーションアート専門学校やOCA大阪デザイン&ITテクノロジー専門学校がヤンマーホールディングに未来のウメキタの街の生活デザインを提案するプロジェクト、コロナ禍の中で、リアルのミュージカルが出来なくなった放送芸術学院専門学校の学生たちが離れた別々の場所で撮影した実写とCGを合成させるVFX技術によるミュージカルをオンライン公演した事例などを次々に紹介しました。

 1994年以来半世紀にわたって、OSM大阪スクールオブミュージック専門学校を中心に毎年続けている骨髄移植推進キャンペーンミュージカル「明日への扉」では学生たちが大きく成長。その全人教育により、劇団「四季」などで活躍する多くの卒業生を輩出していることを紹介。「すべての学生さんが命の尊さ、生きることの素晴らしさ、社会貢献の意義、モチベーションの在り様とか、まず学びます。それから歌やダンス、舞台技術などを学びます。学生たちが募金活動を行い骨髄バンク等に寄付していますが、寄付総額は8千万円を超えています」。初演から毎年、舞台を見つめてきた浮舟邦彦総長はちょっと嬉しげに説明しました。

  • コロナ禍の中、VFX技術を使って生み出した新感覚ミュージカルへの挑戦

  • フィアット、アルファロメオなど世界的な自動車メーカーのデザインコンテストに参加

 またフェラーリーやフィアット、日本の各自動車メーカーとの企業プロジェクトによって約400名のカーデザイナーを業界に送り出していることなどを紹介しました。

時代が求める人材像の変化

 社会の変化を見ながら多様な職業人材を送り出してきた浮舟総長は、今の社会が求める人材像について語る段になると、用意していたホワイトボードに移動。サインペンで書き込みしながら「これまでは社内組織の中で幅広い知識・技術を持っていて定型的な手法を熟練して実施できる人、そして協調性をもっている人と言われていました。しかし今は少し変わってきて、自ら考えて行動できる人が求められるようになってきました。専門知識や技術はもちろん必要です。思考力や判断力、表現力、そして多様な人と協力してチームで仕事を進めていける人材です。リーダシップが取れる人です」と述べました。

  • 011人材

    社会が求める人材像

  • 012白板

    求める人材像の変化について解説する浮舟総長

変わらない人材と我々の目標

 「協調性から自律協働、そして自立協働が出来る人です。デフレの時代は『自律』、インフレでは『自立』です。いずれにしても自分が中心になって物事を進めていく自律(立)協働の人が求められています。そのためにも専門性、マネジメントが重要になってきています」。浮舟総長は組織への共感性、社会人基礎力、グローバルな視点が重要だと示しました。

 さらに変わらない求められる人材として、素直さや誠実さ、信頼感など人間力のある人、つまり「マインド」「スキル」「知識」がベースとして大切だと述べました。
 
 そして「私たちの仕事は、お客さんの価値を創造すること、学生さんの価値を高めていくことです」と締めくくりました。

  • 013顧客

    「私たちの仕事は 顧客の価値を創造すること」。浮舟総長は最後にこう結びました

阪大生から沢山の質問を受けました

 講演後、オンラインを通して続々と阪大の学生さんから質問が寄せられました。その一つ一つに浮舟総長は丁寧に回答を行いました。
2、3、ご紹介します。

Q.人間力と仰っていましたが、具体的にどういう人が、人間力があると定義されているのですか。

総長 なかなか難しいのですが、私は「マインド」と「スキル・知識」に分けて考えました。マインドの部分ですが、考え方とか基本的な人としての道とか、そういうことがしっかりと出来ている人、社会人の基礎力と言ってもいいのですが、挨拶がきちんと出来るとか、コミュニケーションがしっかりと取れるとか、自分の言葉で自分が考えていることを話せるとか、もちろん誠実であるとか真面目であるとか人としての基本をしっかりと持っていて、社会人として、業界人としての基礎が出来ている人だと考えています。

大阪大学の学生の皆さんの質問に答える浮舟邦彦総長

Q.専門学校とちがって私たちが大阪大学で学んでいることは直接、仕事と結びつく可能性は低いのですが、お話を聞いて、人間力だけでも学生のうちにしっかりと身に付けておきたいと思いました。日頃から人間力をつけるために倫理観を高めることや誠実な人間であろうと心がけていますが、大学生のうちに人間力を高めるために出来ることは何かありますか。

総長 リベラルアーツの授業、いわゆる大学でいえば教養科目を真剣にしっかりとやることだと思います。その中に人間としての基礎というものが色んな科目の中に散りばめられています。日頃の授業を真剣にしっかりと受けていただくことが大切だと思います。私も学生時代にもっと真剣に勉強しておけば良かったなあと本当に思っているのですよ(笑)。

Q.不登校の子供が増えているお話がありましたが、不登校の子供が社会に出ていけるように何か具体的な取組みを行っておられますか。

総長 小学校、中学校の不登校は見えにくいところがありますが、ほとんどの方が卒業されているように聞いています。我々の所は高等学校からタッチすることが多いのですが、専門学校の高等学校にあたる高等課程というのがあります。好きなダンスや音楽を学びながら高校卒業資格も取れます。在校生の約7割は不登校経験者で、ここに力を入れてきています。自分の好きなことに接することでもう休む生徒はいないのです。好きなことを通して社会性を身に付けて、大学に行く人もいるし、専門学校に来られる方も就職する方もいます。そこで人生の軌道修正ができる、そういうものは大切だと思っています。もう一つは通信制の高等学校です。家から出られなかった生徒さんが通信制の学びの中で駅まで行けた、学校の近くまで行けたあるいは学校まで行けたという人もいます。段階を経て社会の基本を学んでいかれることが大切だと思います。社会人として仕事が出来るようになってもらうことが大切だと思っています。

 最後に、大阪大学の先生からは、「この講義を聞いて、単に知識を持っているだけではダメなのだ、自らしっかり考えて行動できるようにならなければならないし、また日本人なら誰しも考える単なる協調とかそればかりでもダメなのだ、二つの自律(立)をしっかりしていかなければならないし、最後は人間力だということを改めて学ぶことが出来たのではないかと思います。本日はありがとうございました」とまとめて頂きました。