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【話題の卒業生】 フランス・アルザスでワインを生産 ただ一人の日本人生産者 由良仁太郎さん

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由良さんの第一号ワイン「L’abeille et le papillon」

2012年 東京バイオテクノロジー専門学校 バイオテクノロジー科 醸造発酵コース(3年制) 卒業

IMG_7146アルザス-パリ-北浜を結んでのインタビューです=本部北浜ビル

 フランスワインの5大銘醸地の一つであるアルザス・ロレーヌ地方で自らのブランドを立ち上げ、初めて日本市場に出したワインが即日完売、一躍ワイン界の革新児として注目を浴びている滋慶学園グループの卒業生がいます。東京バイオテクノロジー専門学校 醸造発酵コースの卒業生、由良仁太郎さん(35歳)。6月下旬、畑に出る前のフランス現地時間で朝6時前、滋慶学園グループ本部北浜ビルからZ00Mによるインタビューを行いました。
 インタビューには、フランス側で滋慶ヨーロッパセンターの高島和宏マネージャー、大阪側で株式会社スーパーモード社長を務め、卒業生の起業支援に取り組む国際センターの高山昌司センター長が同席しました。

(現地の写真は由良さんと高島マネージャーの提供です)

 ≪由良さんは1985年、埼玉県さいたま市生まれ。父が銀座のフランス料理店の総支配人を務めていた影響で、幼いころからフランス文化やフランス料理、ワインに興味をもちます。高校卒業後はフランス・リヨンに2年間留学、帰国後、日本橋のフレンチレストランに就職、ソムリエをめざしますが、ワインの奥深さに触れ、自らワインを作りたいと24歳の時に東京バイオテクノロジー専門学校の醸造発酵コースに入学しました。3年間学んだあと、渡仏し、アルザス地方の複数のドメーヌ(ワイン生産農家)で修業を積んで、2020年、35歳の時に独立。アルザス地方で初めての日本人生産者として第1号のワインを生産・販売し、成功を収めてワイン業界にデビューしました。2年前に結婚しましたが、ビザの関係でフランスと日本の遠距離結婚生活をつづけた後、半年前から奥様も加わってワインづくりに取り組んでいます≫

異国の地で夫婦協力してブドウを成育

-朝早くからすみません。今は、どういう時期なのでしょうか。

 5月、6月はブドウが成長する大事な時期です。ツルがあちらこちらに次々と伸びていくので、その手入れと同時にいろんな作業に追われ、収穫期に次いで忙しい時期です。
 コルマールの近くで今は畑を借りて、白ワインの原料になるピノ・ブランやピノ・オーセロワを栽培しています。畑仕事は朝も早く、すべて手作業なので大変ですが、妻も元気に手伝ってくれています

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    農園の手入れを行う由良さん

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    由良さんと奥様

 ≪アルザス地方は、パリから東に高速鉄道TGVで約2時間30分。ドイツ・スイスと国境を接し、戦争の度にフランス領になったりドイツ領になったりを繰り返し、あちこちにアルザスワインを産出する美しい村々が広がっています。全長170km以上にわたるアルザスワイン街道が山肌に広がるブドウ畑を縫うように続いており、コルマールはその中ほどにあります≫

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    アルザス/コルマールの場所

初めてのワインは即日完売!

-ところで、高山さんからお聞きしたのですが、初めて造られたワインが完売したそうですね。独立されるまでの経緯も含めてお聞かせいただければ。

 ええ、私は2012年からアルザスに移り住んで、ワイン農家のDomaine JosmeyerやDomaine Hurstで働きながら、ワインの醸造とブドウの栽培に関する知識やノウハウを学んできました。さらに販売についてもドメーヌでも学びましたが、様々な人との出会いや機会を捉えて覚えてきました。
 そんな中、2020年、フランスもコロナ禍に見舞われました。世界からやってくる観光客目当てにワインを作っていたのがダメになって、困っているワイン農家が結構ありました。それなら今がチャンスかなと思い切って独立しました。生産量が減ったワイン農家のカーヴ(醸造施設)と畑を借りて、農薬や化学肥料を使わない自然農法のビオディナミによるブドウ栽培を行い、そのブドウと一部、近くの農家から買ったブドウを使って、初めて自分のワインを作りました。伝統的なアルザスのスタイルにとらわれず、新参者だからできる新しいスタイルへのチャレンジです。生産量は2000本です。昨年11月に日本で販売を開始しましたが、おかげさまで即日完売でした。

-それが白のヴィンテージの「L’abeille et le papillon」(ラベイユ・エ・ルパピヨン)ですね。

 そうです。L’abeille et le papillonは、「蜂と蝶」という意味です。ブドウの実をつけるための受粉に一役買ってくれている天使の存在だということもありますが、複数の隠喩があります。熟成するのにステンレスと樽の2つのタンクを使っており、ステンレスの樽はフレッシュで直線的な味わいですが、樽は酸素を少し通すのでまろやかです。これを合わせているので微妙なバランスを感じていただけたらと、隠喩を込めました。それとフレッシュで直線的で酸味の強いピノ・ブランと甘みと丸みのあるピノ・オーセロワをブレンドしているので、これも蜂と蝶に込めています。ロゴとラベルは、かつてデザインを勉強していた妻がデザインしました。可能な限りシンプルに、空白の美をという私の意見も取り入れてくれています。2人で意見を出し合いながら一緒に作ったということでしょうか。

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    「L’abeille et le papillon」

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    コルク栓に刻印されたロゴとYURAの文字が

-失礼ですが、アルザス産というブランド力はあるかもしれませんが、まだそれほど知られていない一日本人生産者のワインがなぜそんなに人気を呼んだのでしょうか。

 実は2015年、2016年と就労ビザのために日本に一旦、戻りました。この時に各地のワインショップを訪ねたり、ワインフェアなどで何人かのインポーターの方と知り合いになりました。自己紹介して、将来ワインを作りたいと思っていると話したら、いろんな人から「お客さんを紹介してあげる」「実現したら必ず買ってやる」と言ってもらえました。
 それにワイン情報のYou tubeでも紹介してもらったり、何よりサンフランシスコ在住でワイン業界に影響力のある有名なサッチャーズワインコンサルティングのサッチャー・ベイカー・ブリッグス氏が訪ねてこられて、ワインを飲んでインスタグラムやフェイス・ブックで紹介してもらいました。それで世界10カ国からコンタクトがあったりして、発売日には完売になっていました。とてもラッキーでした。
 完売に妻はとても喜んでいましたが、私は熟成の終わる頃、不安で眠れない日が続いたので、もちろん嬉しかったのですが、それよりもホッとした気持ちの方が強かったですね。

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試飲したワインは、高級外車1台分

―それって、栽培から醸造・販売までキメ細かい起業のための準備と努力を積み重ねてきた結果ですよね。

 そうですね、24歳の時にワインを作ろうと決心してから10年近く、それなりに努力はしてきました。醸造を教えてくれる学校を探したり、世界中のワインを飲み比べたり。私が好んで飲むのは、なぜかいつも寒冷地で造られた酸味のあるワインでした。それで目を付けたのがフランスの寒冷地にあって酸味のあるワインを産出するアルザスでした。ドメーヌごとに違いがあることが分かったので、幾つかのドメーヌで働いて仕事を覚えました。語学留学していますが、最初は言葉にも苦労しましたし、栽培やワイン醸造の知識や技術を教えてもらうのにやはり信頼がないと。なので結構、身を粉にして働きました。今は、多くの種類のワインは造らず、品種とキュベ数を絞って品質をあげる事にエネルギーを注ぎ込んでいます。あっ、それとワインは高級外車1台分は勉強のために飲んでます!(笑)。まあ、それがコミュニケーションにもなりました。

ちょっと誇らしかった東京バイオでの学び

-それはすごい! ところで、その24歳の時に入学した醸造を教える学校というのが東京バイオテクノロジー専門学校の醸造発酵コースですね。学んだことや学校での体験は、今の仕事や由良さんの人生に役立っていますか。

 学生時代、朝は学校、昼から夜はワインやビールを扱うビストロでアルバイト漬けの毎日でした。将来の夢があったので有機化学や微生物学、生化学などワイン醸造に関係する基礎は結構、真面目にやりました。2年生の時にはフランス・マコン地方のシャトー・ボールガールで栽培と醸造の研修を経験しました。その後も山梨やニュージランド・マウントフォードに実地研修に出かけています。
 3年間で焼酎を造る課題にも取り組みましたし、卒業研究は、ガスクロマトグラフィーと液体クロマトグラフィーを使ってワインの香味成分分析を行い、官能評価と理論の関係性についての理解を深める研究でした。あとで知ったのですが、ボルドーで知り合った有名大学の醸造学部を出た人でも学生時代にガスクロマトグラフィーを使った経験はないと言っていました。東京バイオはなかなかなものだと、ちょっと誇らしかったですね。

 ≪東京バイオテクノロジー専門学校の醸造発酵コースは、2000年に大噴火で全島民が離島した伊豆諸島・三宅島で三宅島酒造株式会社との産学連携によって、焼失した蔵から酵母を採取し、焼酎「雄山一(おやまいち)」を蘇らせたり、株式会社羽田麦酒との産学連携でクラフトビール「華香 HANAKA – 大田のかほり -」を生産販売。また2021年、東京港醸造との連携でオール東京の酒「純米吟醸原酒 江戸開城 ~All Tokyo~」の開発・販売を行うなど、数々の輝かしい実績を積んでいます≫

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インターナショナルすぎる東京バイオ アルザスで同窓生と遭遇

 アルザスのワインは、それぞれのドメーヌによって、とても個性的です。ブドウの品種や土地、風土、それに生産者の様々な工夫が反映しているのだと思います。学生時代の学びとつながっていますが、カーブは100年以上の歴史があるし、私は“蔵つき酵母”が関係しているのではないかと考えています。フランスではそんな呼び名はないですが、これも学校で覚えた言葉です。なんか懐かしいですね。
 アルバイトはビールやワインを扱うビストロでしたが、稼いだお金は学費と研修にあてていました。
 それと、今回の初めてのワインの製造販売では、酒屋を継いでいる同窓生から注文が入ったことも嬉しかったです。それにこちら(アルザス)で働き出してすぐに、現地の別のワイナリーで働いている秋田君という日本人に出会いました。仲良くなって話していたら、なんと東京バイオの卒業生だと分かってびっくりしました。彼もいずれ自分のワインを造りたいと言っています。

次は生産量を6倍に

-すごい偶然ですし、「国際教育」が建学の理念の一つだと言っても、あまりのインターナショナルな東京バイオにびっくりです。最後の質問ですが、由良さんご自身、まずはワインを造るという長年の夢を叶えました。これからの計画と、後輩へのメッセージがあればお願いします。

 今年は1万2000本、造りたいと思っています。去年の6倍です。そのためにブドウの品種も増やして、他の農家からの葡萄の購入量を増やしました。使われなくなったカーブも手に入れ、古くなった器材類を新しくするための資金調達の準備も進めています。
 将来的には100%自分で栽培したブドウを使ってワインを造るのが当面の目標です。化学的な農薬や肥料を使わないサステイナブルなビオディナミ農法によるブドウ栽培や醸造も、もっと探求したいと思っています。今のところ、栽培は予想以上に順調です。もちろん、何があるか分かりませんが、ぜひ成功させて、今度は品切れでお客様にご迷惑をおかけすることのないように頑張ります。そして自分が所有するドメーヌと広大な畑で世界中の人に喜んでもらえるワインづくりを続けたいです。学校や滋慶学園グループの皆様も応援よろしくお願いします。

 後輩の皆さんには、もっと海外にチャレンジして欲しいと思っています。ワインは世界中にあるし、国際商品です。ワインを通して世界が広がっていくと思います。秋田君の場合もそうですが、思わぬところで出会ったりすると、嬉しいですよね。

総長をはじめグループでも応援しています

-浮舟邦彦総長もワインには造詣が深い方です。次は沢山手に入れたいと期待されており、今後のご活躍をグループあげて応援しています。大切な朝の時間、ありがとうございました。

  • WINEART掲載記事2022_6月_109号

    ワイン専門誌「Winart」に紹介された記事

  • アルザス地元新聞掲載記事2022

    フランスの地元新聞にも紹介されました

(Web広報センター)