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滋慶医療科学大学大学院で学位授与式 看護師、臨床工学技士、アスレチックトレーナーなど多職種で学び、医療安全のリーダーに

 「医療の質と安全」を探究する滋慶医療科学大学大学院の2025年度学位記授与式が、柔らかな日差しが届く3月14日(土)、大阪市淀川区の同大学院で行われました。医療安全管理学修士を取得したのは看護師、臨床工学技士、薬剤師などとして現場で活躍している人たち。職場や家庭との両立を図りながら研究に励んできました。医療現場はデジタル技術などの進歩で急速に変化しています。修了生たちは大学院での経験・研究成果を活かし、それぞれの職場で安全の向上に貢献していくことを誓いました。

 同大学院は学校法人 大阪滋慶学園が運営し、日本初の「医療の質と安全」を学ぶ滋慶医療科学大学院大学として2011年に誕生。滋慶医療科学大学の発足に伴い名称が変更になりました。これまでの修了生は病院、医療施設、医療機器メーカーなどでリーダーとして活躍中です。今年の修了生は13人。なかには学校の教員でスポーツ科学の指導をしているアスレチックトレーナーもいました。

「医療の質を改善し続ける使命」 千原國宏学長

 千原國宏学長は告辞で、「皆さんは社会人としての職責を果たし、家庭を支えながら大学院の高度な学びに挑戦。限られた時間と体力の中で、知識力・探求力・人間力を深め研鑽を積まれました。その不屈の努力に心から敬意を表します」と称えました。

 そのうえで、修了生が手にした学位について、医療の質と安全に関する高度な知識を習得し、現場で的確に活用できる力、国際的な視野を持って研究できる力、そして高い倫理観を持って世界的に活躍できる力を備えた証であると説明。「それは同時に医療の質を問い続け、改善し続ける使命を託されたことを意味しているのです」と語りました。

 さらにフランスの哲学者サルトルの「人間は自由の刑に処せられている」という言葉を紹介し、「医療安全に携わる皆さんは日々、重大な判断を迫られます。その一つひとつの選択が、患者さんの生命、医療への信頼、組織の未来を左右します。自由だからこそ、その責任を引き受けなければなりません。その覚悟を持って行動することこそ、専門職業人としての矜持です」と強調しました。

 千原学長は、医療安全の分野は華やかではなく、成果が見えにくいとしたうえで、「事故を未然に防ぎ、患者さんが安心して医療を受けることができれば、患者や家族の人生を支えることになるのです。自らの役割に誇りを持ち、小さな改善の積み重ねを疎かにしないでください。その一歩一歩が職場を変え、医療を変え、社会を変えていくのです」と説きました。

「医療安全は経営の課題でもある」 浮舟邦彦理事長

 大学の運営母体である学校法人 大阪滋慶学園の浮舟邦彦理事長は祝辞で、パンデミックや医療改革という環境下で、仕事・家庭・学業を両立させた努力に敬意を表しました。

 AIやDXの急速な進展により、医療・福祉の現場、社会・経済が大きく変容していることに言及。「そのような中で医療の質と安全は患者や家族のみならず、病院経営の重要な課題。技術進歩や地域包括ケアの分野で、医療安全の重要性はますます高まり、さらなる深化とケーススタディ、ノウハウの蓄積が求められます」と指摘しました。

 修了生への期待として、リーダーシップや多職種連携で育んだチームワーク力、コミュニケーション力、マネジメント力を発揮することをあげ、生涯学習の重要性を力説しました。

 「生涯学び続けることが最も大切な姿勢です。今後も学会や研究会などに積極的に参加し、学びを継続するとともに、人的なネットワークを築いていってください」。さらに卒業後も教授陣の知見や大学院の研究施設を活用するようアドバイスし、「これから社会に大きく貢献されることを心より祈念します」と語りました。

「医療安全のプロとして旗振り役に」 大阪大学医学部、石井優部長

 大阪大学医学部長で大学院医学系研究科長の石井優先生は、苦労して修士号を手にした努力を称賛しながら、検査法や治療法の進歩と生成AIの爆発的な進歩によって、医療現場やサポートシステムが今後5年、10年で劇的に変わると指摘しました。

 修了生に対し、医療安全のプロとして「最先端の技術をキャッチアップするだけでなく、自ら新しい分野を切り拓く旗振り役となってほしい。どれだけ科学が進歩しても、医療の本質は人と人とのつながり。コミュニケーションを大切に仕事に励んでください」と語り、豊かな人間性を備えた医療人として成長するよう求めました。

 さらに現代社会が、少子高齢化や様々な社会不安、持続可能な医療体制の維持など多くの課題に直面しているとして、「不透明な時代だからこそ、医療の安心・安全を担う活動は、極めて重要な意味を持ちます。目の前の患者に向き合うことはもちろん、より広い社会的な視点を持って活躍されることを願っています」と期待の言葉で締めくくりました。

「物事を多角的に捉える視点を学んだ」 修了生が謝辞

 修了生を代表し、看護師の田中真紀さんが大学院での2年間を振り返りながら感謝の言葉を述べました。医療の高度化・複雑化が進む中で、田中さんは「仕事と学業の両立」に悩み、業務を優先せざるを得ない葛藤があったそうです。「それでも学びを通して、自らの実践を見つめ直す時間が私たちを支えてくれました」と語りました。

 同期の仲間たちと職種や立場、経験の違いを超えて語り合い、励まし合いながら共に学んだことについて、「かけがえのない大切な時間。この2年間で築いた繋がりは、これからも大きな力になるものと確信しています」と述べました。

 研究を通じて物事を多角的に捉える視点を学ぶことができたと言い、臨床で抱いた疑問を言語化し、根拠を持って考え論文としてまとめた経験は、今後の確かな指針となると強調。最後に「本学において培った知識と研鑽をそれぞれの現場で生かし、医療の安全と質の向上に努めてまいります」と誓いました。

「コーチ」の真の意味とは? 和佐勝史研究科長

 式典終了後、大学院医療管理学研究科の和佐勝史研究科長がスピーチ。かつて研修医時代に学んだ「指導の在り方」について語りました。コーチングの「コーチ」という言葉の語源がハンガリーの町で作られた馬車(Coach)で、大切な人を目的地まで送り届けるのが役割であり、主体はあくまで馬車に乗っている人。行き先を決めるのも人だといいます。指導者が一方的に知識を教えるティーチングとは違い、コーチングは自分で考えさせ、答えを導き出せるようサポートすることだと説明しました。

 また、古代中国の思想家・老子の「魚を与えればその人は一日食べていける。だが、魚の釣り方を教えれば、その人は一生食べていくことができる」いう教えも紹介しました。長期的な自立を支援するための原則を示していて、魚(結果)を与えることはその場しのぎの解決にしかならない。それに対し、釣り方(プロセス)を教えることは、自ら考え実行する能力を養い、一生改善し続ける力を授けることになる、と解説しました。

 そのうえで、和佐研究科長は「学位を取得したことに満足しないで、その経験や知識を後輩たちに伝えてほしい。それも、ただ答えを教えるのではなく、自ら考え答えを導き出せる人材を育てるコーチとして関わってください。皆さんが“釣り方”を伝えることで、医療安全の質を高めるリーダーが次々と育っていく。そんな未来を共に作っていければと願っています」と語りました。